取組紹介・コラム

全国254自治体調査で見えた選挙DXの課題|人手不足・投票環境・インターネット投票への期待

人口減少、職員数の制約、高齢化、投票所への移動課題――。自治体の選挙現場では、従来の運営方法だけでは対応が難しくなりつつある課題が顕在化しています。

公共DX推進サロンでは、全国自治体の選挙管理委員会等を対象に、選挙事務の実態、有権者の投票環境、インターネット投票に対する意識についてアンケート調査を実施しました。本記事では、254自治体から寄せられた回答をもとに、自治体の選挙現場が直面している課題と、今後のDX化に向けた示唆を紹介します。

調査結果から見えてきたのは、単なる「オンライン投票への賛否」ではありません。選挙事務を支える人員確保、正確性と効率性の両立、有権者が投票所に行くための移動手段、そして公職選挙に求められる信頼性をどう担保するかという、選挙制度全体に関わる課題です。


調査概要

調査テーマ選挙・投票に関する自治体アンケート調査
回答数254自治体
対象全国1788自治体選挙管理委員会(広報等他部署の代理回答含む)
主な調査項目選挙事務の実施状況、有権者への情報提供、選挙実務上の課題、投票環境の課題、インターネット投票への意識、つくば市実証事業の認知度など

本調査では、インターネット投票への賛否だけでなく、自治体が日々直面している選挙実務上の課題や、有権者が投票に参加するうえでの環境面の課題もあわせて確認しました。

調査結果のポイント

  • 選挙事務について、56.3%の自治体が「少し問題があった」または「大いに問題があった」と回答。
  • 選挙実務上の最大課題は「投開票所の人手の確保」で、82.7%の自治体が選択。
  • 有権者の投票環境では、「投票所までの移動や交通手段」が53.1%で最多。
  • インターネット投票については「慎重に検討すべき」が66.9%で最多。一方、「実施すべき」「積極的に検討すべき」を合わせた前向き層は29.5%。
  • つくば市のインターネット投票実証事業については、65.8%が「あまり知らない」または「まったく知らない」と回答。

これらの結果から、自治体の選挙現場では、業務負荷の増大と投票環境の維持という二つの課題が同時に進行していることがわかります。一方で、インターネット投票に対しては期待もあるものの、制度面・技術面・運用面の慎重な検証が求められています。

1. 約6割の自治体が、選挙事務に「何らかの課題あり」と回答

まず、2026年2月の衆院選において、選挙事務が滞りなく行われたかを尋ねたところ、「まったく問題なかった」は7.9%、「あまり問題なかった」は35.8%でした。一方で、「少し問題があった」は35.4%、「大いに問題があった」は20.9%となりました。

回答回答数割合
まったく問題なかった207.9%
あまり問題なかった9135.8%
少し問題があった9035.4%
大いに問題があった5320.9%

「問題なかった」とする回答は合計43.7%にとどまり、56.3%の自治体が何らかの課題を感じていたことになります。選挙は法律に基づき厳格に執行される業務である一方、実務の現場では、短期間での準備、人員確保、正確性の維持など、多くの負担が集中していることがうかがえます。

図1:選挙事務は滞りなく行われたか

2. 情報提供は約6割が「できた」と回答する一方、4割は課題を認識

次に、有権者に対して十分な情報提供ができたかを尋ねた設問では、「十分にできた」が3.1%、「できた」が56.7%で、合わせて59.8%が肯定的な回答でした。一方、「あまりできなかった」は37.0%、「まったくできなかった」は3.1%で、約4割の自治体が情報提供面に課題を感じていました。

回答回答数割合
十分にできた83.1%
できた14456.7%
あまりできなかった9437.0%
まったくできなかった83.1%

選挙情報の提供は、投票日、投票所、期日前投票、投票方法、候補者情報など多岐にわたります。特に準備期間が限られる選挙では、紙媒体、自治体ウェブサイト、SNS、防災無線、広報紙などを組み合わせた、複線的な情報発信が重要になります。

3. 選挙実務の最大課題は「投開票所の人手の確保」

続いて、選挙実務に関する課題を複数選択で尋ねたところ、最も多かったのは「投開票所の人手の確保」で、210自治体、82.7%にのぼりました。次いで、「選挙実施にかかる費用」が48.4%、「開票の正確性と業務効率」が44.5%、「投票所業務の正確性」が40.9%でした。

選挙実務上の課題選択数選択率
投開票所の人手の確保21082.7%
選挙実施にかかる費用12348.4%
開票の正確性と業務効率11344.5%
投票所業務の正確性10440.9%
投開票所の運営にかかる費用7629.9%
選挙人の本人確認の正確性6124.0%

この結果から、自治体の選挙現場では「人」「費用」「正確性」「効率性」が複合的な課題になっていることがわかります。特に投開票所は、当日の短時間に大量の業務が集中するため、職員、会計年度任用職員、立会人、外部スタッフなどを含めた体制確保が大きな負担となります。

選挙DXを検討する際には、投票そのもののオンライン化だけでなく、投票所受付、名簿照合、期日前投票管理、開票集計、問い合わせ対応、帳票作成など、周辺業務を含めてどこに負荷が集中しているのかを可視化することが重要です。

図2:選挙実務で課題に感じていること

4. 有権者側の最大課題は「投票所までの移動や交通手段」

有権者の投票環境について課題を尋ねたところ、最も多かったのは「投票所までの移動や交通手段」で、135自治体、53.1%でした。次いで、「選挙や候補者に関する情報の質と量」が29.1%、「代理投票や郵便投票の利用」が22.4%、「投票所内や駐車場等のバリアフリー」が20.9%となっています。

有権者の投票環境に関する課題選択数選択率
投票所までの移動や交通手段13553.1%
選挙や候補者に関する情報の質と量7429.1%
代理投票や郵便投票の利用5722.4%
投票所内や駐車場等のバリアフリー5320.9%
記載台での投票用紙への記入249.4%

この結果は、選挙参加の課題が「投票所に来ることができるか」という物理的なアクセス問題と密接に関係していることを示しています。高齢化が進む地域、公共交通が限られる地域、投票所の統廃合が進む地域では、投票所までの移動そのものが有権者にとって大きな負担になり得ます。

そのため、今後の投票環境整備では、インターネット投票のような新しい投票手段の検討とあわせて、移動支援、期日前投票所の配置、巡回型支援、投票所のバリアフリー化、郵便投票制度の利便性向上などを総合的に考える必要があります。

図3:有権者の投票環境で課題に感じていること

5. インターネット投票は「慎重に検討すべき」が多数派。前向き層も約3割

公職選挙へのインターネット投票の導入について尋ねたところ、「慎重に検討すべき」が66.9%で最も多い結果となりました。一方で、「実施すべき」は5.9%、「積極的に検討すべき」は23.6%で、両者を合わせた前向き層は29.5%でした。「検討すべきでない」は3.5%にとどまっています。

インターネット投票への考え回答数割合
実施すべき155.9%
積極的に検討すべき6023.6%
慎重に検討すべき17066.9%
検討すべきでない93.5%
前向き計7529.5%

この結果から見えるのは、自治体の多くがインターネット投票に対して「否定」しているわけではなく、「制度面・技術面・運用面のリスクを確認しながら慎重に検討したい」と考えている姿です。

特に公職選挙では、本人確認、二重投票防止、秘密投票の担保、投票の真正性、システム障害時の対応、監査可能性、サイバーセキュリティなど、多くの論点があります。したがって、単にオンライン化の利便性を訴求するだけではなく、自治体職員や有権者が納得できる制度設計と、透明性の高い検証プロセスが不可欠です。

図4:公職選挙へのインターネット投票導入についての考え

6. つくば市の実証事業は、約3分の2が「知らない」

公職選挙へのインターネット投票導入を目指した、つくば市での実証事業について知っているかを尋ねたところ、「よく知っている」は2.4%、「知っている」は31.9%でした。一方、「あまり知らない」は34.3%、「まったく知らない」は31.5%で、合わせて65.8%が十分には認知していない結果となりました。

つくば市実証事業の認知度回答数割合
よく知っている62.4%
知っている8131.9%
あまり知らない8734.3%
まったく知らない8031.5%

インターネット投票の社会実装を検討するうえでは、先進事例の存在を知ってもらうだけでなく、実証で何を検証したのか、どのような課題が見えたのか、どのような対策が必要なのかを、自治体職員が実務目線で理解できる形で共有することが重要です。

なお、今回のクロス分析では、実証事業の認知度とインターネット投票への前向き度の間に、単純に「知っているほど前向き」と言い切れるほどの大きな差は見られませんでした。つまり、認知拡大は重要である一方、認知だけで導入意欲が高まるわけではなく、本人確認、秘密投票、運用コスト、セキュリティといった具体的な懸念に答える情報提供が求められます。

図5:つくば市インターネット投票実証事業の認知度

7. 住民参加型イベントへの関心は高いが、実施意向はまだ限定的

住民が参加するインターネット投票イベントについて尋ねたところ、「実施したい」は0.8%、「検討したい」は7.5%でした。一方で、「情報は知りたい」は76.8%と高く、現時点では実施に踏み切る段階ではないものの、多くの自治体が情報収集には関心を持っていることがわかります。

住民参加型インターネット投票イベントへの意向回答数割合
実施したい20.8%
検討したい197.5%
情報は知りたい19576.8%
興味関心はない3815.0%

この結果は、自治体がインターネット投票に対して無関心なのではなく、「まずは情報を集めたい」「他自治体の事例を知りたい」「実施する場合のリスクや手順を把握したい」という段階にあることを示しています。

今後は、公職選挙そのものへの導入だけでなく、模擬住民投票、住民アンケート、地域課題投票、学校や若者向けの投票体験など、リスクを限定した形での実証・体験機会を増やすことが、理解促進の一歩になると考えられます。

8. 「移動手段」に課題を感じる自治体では、やや前向きな傾向

今回の分析では、「投開票所の人手の確保」を課題に挙げた自治体と、挙げていない自治体で、インターネット投票への前向き率に大きな差は見られませんでした。人手不足を課題に挙げた自治体の前向き率は29.5%、挙げていない自治体も29.5%で、同水準でした。

一方、有権者の「投票所までの移動や交通手段」を課題に挙げた自治体では、インターネット投票への前向き率が31.1%、移動手段を課題に挙げていない自治体では27.7%で、差は3.4ポイントでした。

大きな差とは言えないものの、移動困難や交通手段の不足を課題として認識している自治体ほど、新しい投票手段に対してやや前向きな傾向が見られます。これは、インターネット投票が「行政事務の効率化」だけでなく、「投票機会の確保」「移動困難者への支援」「投票参加の裾野拡大」という文脈で期待されている可能性を示しています。

調査から見えた、選挙DXに向けた3つの論点

1. まず解くべきは「現場業務の持続可能性」

投開票所の人手確保を課題に挙げた自治体は82.7%にのぼりました。選挙DXは、単に投票をオンライン化する議論ではなく、準備、受付、本人確認、投票管理、開票、集計、報告、問い合わせ対応といった一連の業務をどう持続可能にするかという視点で考える必要があります。

2. 有権者目線では「投票所に行けるか」が大きな論点

有権者の投票環境では、「投票所までの移動や交通手段」が最も多い課題でした。高齢者、障がいのある方、交通手段が限られる地域の住民などにとって、投票のハードルを下げる取り組みは、民主参加を支える重要なテーマです。

3. インターネット投票には「期待」より先に「信頼設計」が必要

インターネット投票への前向き層は約3割存在する一方で、最も多い回答は「慎重に検討すべき」でした。これは、自治体がDXに否定的というよりも、公職選挙に求められる厳格性を踏まえ、信頼できる制度・技術・運用の説明を求めていることを示しています。

おわりに:選挙DXは、「投票機会を守る」取り組み

今回の調査から、自治体の選挙現場では、人手不足、費用負担、正確性の確保、有権者の移動課題など、複数の課題が同時に進行していることが明らかになりました。

インターネット投票は、こうした課題を解決する可能性を持つ一方で、公職選挙に導入するためには、本人確認、秘密投票、セキュリティ、監査可能性、障害時対応、デジタルデバイド対策など、乗り越えるべき論点も多くあります。

だからこそ、従来の法制度や技術面での議論・検討に加えて今後求められるのは、自治体の現場課題に即した段階的な検証です。模擬投票、住民参加型投票、学校や地域での実証などを通じて、技術・制度・運用・住民理解の各面から検証を積み重ねていくことが、選挙DXの現実的な第一歩となるでしょう。

公共DX推進サロンでは、今後も自治体現場のデータと声をもとに、公共分野におけるDXの可能性と課題を発信していきます。


注:本記事は、全国254自治体からのアンケート回答をもとに作成しています。複数選択設問については、選択率の合計が100%を超える場合があります。


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