課題解決の事例

インターネット投票で市民の声を市政に反映 ― つくば市の取り組み

つくば市(茨城県)

業務領域
スマートシティ
サービス
投票システム 開発・運用サービス

課題と解決策

課題

インターネット投票の実施において、厳正な個人認証や投票の秘密保持、公正なデータ管理、誰もが利用できるアクセシビリティの確保など、技術的な課題があった。

解決策

投票の目的や規模に応じて認証・データ管理方式を柔軟に組み合わせたインターネット投票の仕組みを構築。マイナンバーカード認証やブロックチェーン技術を活用し、改ざん防止とセキュリティを両立したほか、音声読み上げ対応など、アクセシビリティにも配慮した投票環境を実現。

効果

様々な要因で移動が困難な方でも、セキュアな環境で投票が可能な体制が整えられた。また、市民がインターネット投票を通じて市政に参加する新たな仕組みが実現された。

課題解決の取り組み

目次
提供:つくば市

茨城県南部に位置するつくば市は、国の研究機関や大学など、多くの教育研究施設が集まる「研究学園都市」として発展してきました。自然と調和した都市環境のもと、研究成果の社会実装を推進しており、全国でも先進的な取り組みを積極的に行う自治体のひとつです。2022年には、政府から「スーパーシティ型国家戦略特別区域」の指定を受け、先端技術を活用した地域課題の解決に取り組んでいます。
「世界のあしたが見えるまち」というビジョンのもと、誰一人取り残さないまちを市民と「ともに創る」ことを目指しており、その未来志向の取り組みのひとつが、インターネット投票事業です。

1.インターネット投票事業のはじまり

国内初のインターネット投票の実証実験

つくば市がインターネット投票に着目したきっかけは、「つくばSociety 5.0社会実装トライアル支援事業(現:つくばスマートシティ社会実装トライアル支援事業)」にあります。
この事業は、市の課題を解決するための技術やサービスを企業・研究機関などから募集し、審査を経て選定された提案の社会実装を支援する取り組みです。

株式会社VOTE FOR(現:スパイラル株式会社)は、2017年度の同事業に応募企業としてインターネット投票を提案。その際は落選しましたが、その後つくば市との意見交換を重ね、2018年度事業の最終審査の仕組みとして市民によるインターネット投票を実施することとなり、マイナンバーカードを用いた個人認証、ブロックチェーン技術による投票データの完全性を担保する仕組みを組み合わせた、国内初のインターネット投票の実証実験が行われました。

インターネット投票で投票機会の平等化を目指す

高齢者や障害者をはじめとして、投票所への移動が困難である、代理で投票を依頼するのは気が引けるなど、様々な理由で投票をあきらめざるを得ない方々がいます。
そういった方々が投票の機会を損なうことなく、自らの意見や希望を反映できる社会を目指し、つくば市とスパイラル株式会社は継続的にインターネット投票の実証実験を行っています。
「つくばスーパーサイエンスシティ構想」においても、インターネット投票の取り組みは主要事業のひとつとして位置づけられています。

つくば市のインターネット投票風景
スマートフォンから投票を行う様子(提供:つくば市)

2.取り組み内容

インターネット投票の実現に向け、より多くの市民にインターネット投票を体験し理解を深めてもらうために、つくば市では「キャラクター投票」や「映えスポット投票」等の実施を通し、事例の積み重ねを図ってきました。

市民が市長の行政運営を評価するインターネット投票を実施

2024年には、「つくば市長(2期目)の行政運営」 をテーマとした、市長の行政運営を市民が評価するインターネット投票を実施しました。この投票では、市長の公約の進捗と実績に対して、市民が11段階(0点~100点)で評価を行いました。
また、この投票の実施にあたって、市は「つくば市長の給料の特例に関する条例」を制定し、市民による評価の結果が市長の退職金額に反映されるようにしました。

3.インターネット投票システムの仕組みとその効果

インターネット投票における技術的な課題

インターネット投票の実現に向けては、「一人一票」の厳正な個人認証や投票の秘密の保持、公正性を担保したデータ管理、そして誰もが利用できるアクセシビリティの確保など、多くの技術的課題がありました。
特に、誰もが平等に投票機会を確保するためには、セキュリティと利便性を両立しながら、障害の有無や利用環境にかかわらず公平に投票できる仕組みを構築することが求められていました。

柔軟なカスタマイズ性と安全性を兼ね備えた投票環境の実現

こうした課題に対し、スパイラル株式会社では、目的や規模に応じて最適な認証・データ管理の方式を柔軟に組み合わせるプランニングを実施。マイナンバーカード認証やブロックチェーン技術を組み合わせて活用することで、投票データの改ざんや不正を防止し、セキュアな投票環境を実現しました。

また、長年の選挙システム開発の知見を活かし、つくば市で実施している各模擬投票では選挙ごとにセキュリティや認証方式をカスタマイズするなど、多様な投票形態にも対応しています。例として、つくば市が提供するアプリ「つくスマ」の認証基盤と連携し、地域に根ざした投票環境を実現しました。
各模擬投票では、「画像選択型」や「テキスト選択型」など、様々な形式で投票を実施。2018年からの取り組みを通して、投票システムの安全性や操作性の検証を重ねることで、多様なテーマに応じた投票環境の実現性と有効性を検証しています。

実際の投票画面の画像
投票システムでは様々な形式での投票が可能

4.今後の展望や課題

つくば市のインターネット投票事業は、「誰もが困難や不便さを感じずに投票できる環境の構築」を目指し、先端技術を活用した新しい民主主義の実現を目的としています。
この実現を通じて、多様な市民の「投票機会の拡大と」「参画促進」を目指していますが、同時に、本人確認方法や投票の秘密、信頼性担保などの課題にも直面しています。

目指すビジョン・目的

  • 「新たな選択肢」と「多様な幸せ」を示す“スーパーシティ”実現の一環として、先進技術を社会実装し、利便性と持続可能な行政サービスを創出する。
  • 時間や場所に縛られず、投票所に行けない市民も含め、誰でも簡単・安全に投票できる仕組みを提供し、政治への参加促進を図る。
  • マイナンバーカードやブロックチェーン、顔認証などを活用することで、公正・安全な投票システムの確立を目指す。

今後の課題

  • 現行の公職選挙法等における規制が、インターネット投票の導入に必要な個人認証や投票過程の公正性確保に対応しておらず、これらの規制改革が進んでいない。

技術的課題の解決は進んでいるものの、法制度の改正を含む規制改革には依然として課題が多く残っています。
つくば市では、引き続き法改正と制度整備に向け、インターネット投票事業に積極的に取り組んでいく方針です。

(2025年11月19日掲載)
※自治体情報・肩書などを含め、本事例ページに記載された内容は2025年10月時点の情報です。