課題解決の事例

高齢者にも若者にも見やすく、伝わる広報を―加西市の自治体広報DXへの挑戦

加西市(兵庫県)

業務領域
広報広聴
サービス
広報プラス(マイ広報紙プレミアムプラン)

課題と解決策

課題

広報誌のデジタル化に際し、紙媒体での配布を前提に作られている広報誌をそのままデジタル化すると、可読性が著しく下がり、市民サービスの低下に直結する懸念があった。

解決策

広報紙配信サービス「広報プラス」を導入することにより、デジタル化しても読みやすい広報誌になるよう、記事ごとにページを設ける、文字サイズを大きめに初期設定するといった工夫を行った。

効果

広報誌の多言語翻訳や音声読み上げ機能が実装され、誰もが読みやすいデジタル広報誌が実現した。また、記事のPV数を取得することで、今後の広報誌制作の改善につなげる体制が出来た。

課題解決の取り組み

目次
写真:熱気球 ピースバルーン号

1.背景:誰もが見やすく、伝わる広報を目指して

加西市の住民自治のDXに向けた取り組み

加西市は、令和4年2月に「加西市DX推進計画」を策定しました。その指針に則り、暮らしの利便性向上や地域社会の活性化、そして土台となる行政基盤の強化を図り、より豊かで活力のあるまちにするため、DXの推進に取り組んでいます。

目指すまちづくりを「スマートシティ型のまちづくり」とし、その中の住民自治の分野においては、自治会の回覧板など、紙やアナログ業務を前提とした連絡手段のデジタル化に力を入れてきました。住民からも「行政や関連団体から依頼される業務の負担を軽減してほしい」「市広報やチラシなどの配布の負担を減らしてほしい」と言った声が寄せられており、住民への情報提供の手段や広報の在り方そのものを見直す必要性が高まっていました。

加西市では、まず市と自治会との連絡手段、次に市から住民への防災や市政に関する情報の提供手段、そして自治会から各町内に住む住民への連絡手段、と段階的に連絡手段と情報発信のデジタル化を進めてきました。

広報誌のデジタル化における課題

こうした中で、市の発行する広報誌のデジタル化における大きな課題が浮かび上がってきました。それは、広報誌自体が紙媒体での配布を前提に作られているため、スマートフォンなどで見ると文字が小さく読みにくいなど、可読性が著しく下がるという点です。自治体広報誌は全戸配布を行っているため、こうした読みづらさが市民サービスの低下に直結するという懸念がありました。

この課題を解決するため、加西市は兵庫県が支援する「ひょうごスマートシティ・チャレンジ」の取り組みの中で、誰もが見やすく使いやすいデジタル広報の実現を目指しました。

2. 実証実験──「誰にとっても見やすく、伝わる広報」の実現に向けて

「ひょうごスマートシティ・チャレンジ」における広報業務のデジタル化の実証実験にあたってポイントとなったのは、「誰にとっても見やすく、伝わる広報」が実現できるかどうかでした。具体的には以下のような要件を満たすことを前提として、加西市では取り組みが進められました。

  • 高齢者が「見やすく、便利になった」と感じられること
  • 紙媒体の広報誌の閲覧率が低い若年層でも「読みたい」と思ってもらえること

これらの条件を達成できるような広報のデジタル化を目指し、加西市は新たな広報の在り方を検証していくこととなりました。

3. 実証実験で見えたデジタル広報のかたち

実証実験では、広報誌をテキストデータ化し、オンライン上で閲覧できる専用Webサイト「広報プラス -広報かさい-」を構築し、実際の広報誌配信を通じて検証を行いました。

「広報プラス -広報かさい-」では、広報のデジタル化が抱える課題を解決すべく、仕様の面で様々な工夫が施されました。

広報誌の可読性を担保する設計

まず、広報誌の可読性を担保するために、スマートフォンなどのデジタル端末上でも読みやすくする必要がありました。そこで、記事を各ぺージに分けて見出しをつけ、その見出しを一覧で表示することで、読みたい記事にアクセスしやすくしました。加えて、初期設定の文字サイズも大きめに設定され、拡大操作をせずとも快適に読めるよう工夫がされました。

一方で、これまで紙の広報誌に触れる機会が少なかった若年層にも便利さを感じてもらえるように、誌面のQRコードはURLリンクの形式で掲載し、記事からスムーズに問い合わせなどのページに移動できるようにしました。

多言語翻訳、音声読み上げ機能によるアクセシビリティの向上

また、言語面での障壁や視覚的なハードルについても対応が図られました。テキストデータ化することによって広報誌の内容を多言語に翻訳することが容易になり、外国人住民にも必要な情報が伝わるようになりました。目の不自由な方に対しては、記事だけなく広報誌全体を通しての読み上げが可能な音声読み上げ機能の実装や、地名や人名など固有の読み方があるものは個別で読み上げ指定ができるような仕様にし、外国人住民や目の不自由な人にも配慮した広報誌のデジタル化が実現しました。

記事PV数などの閲覧情報の取得

さらに、記事単位での閲覧情報を取得できるようにしたことで、どの記事がよく読まれているかなどの傾向を把握できるようになり、今後の広報誌の内容や構成の改善にもつなげられるようにもなりました。

これらの工夫を通じて、幅広い層にとっての「見やすさ」や「伝わりやすさ」が備わったデジタル広報が実現しました。

4. 導入の効果とその後の展開

実証実験を通じて、加西市では以下のような成果が確認されました。

  • 高齢者や若年層の可読性、利便性に配慮したデザイン
  • 外国人住民向けの多言語翻訳対応(10か国語)
  • 視覚障がいを持つ方に配慮した音声読み上げ機能
  • 利用状況のデータ取得による広報業務の改善への活用

これらの成果を受け、令和6年度から加西市では本格的に「広報プラス -広報かさい-」の導入を開始。LINE公式アカウントと連携した情報配信など、より多くの市民にスムーズに情報が届く環境づくりが進められています。

5. 加西市のチャレンジが教えてくれること

地域内の高齢化、多国籍化や紙媒体での広報誌配布の担い手不足などの課題が顕在化しつつある今、広報のデジタル化は多くの自治体が向き合うテーマです。

加西市の取り組みは、県の支援を受け行った実証実験を踏んでからの本格導入という、段階的に仕組みを整えていくアプローチを取りました。一足飛びではなく、実際に住民の声を聞きながら、効果を確かめつつ進めていったプロセスは、他の自治体にとっても参考となるものです。

加西市の事例は、これからの自治体の広報のかたちを考える上で、ひとつの指針となりそうです。

(2025年7月23日掲載)
※本記事の内容は2025年7月時点の情報です。